EC
顧客インサイトの掘り方。機能ではなくジョブを売る
アンケートで「何が欲しいですか」と聞いて、返ってきた要望をそのまま機能にしたのに刺さらない。レビューを開いても「もっと安く」「もっと量を」くらいしか出てこない。こういう現場に自分は何度も立ち会ってきました。人は、なぜそれを欲しいのかを自分でも言葉にできません。だからそこを掘らないまま機能だけ足しても、商品は競合に埋もれます。
顧客に「何が欲しい」と聞かない
商品やLPを考えるとき、自分もまず顧客の声を取りに行きます。アンケート、レビュー、インタビュー。ここまでは間違っていません。問題は聞き方です。
「何が欲しいですか」と聞かれた人は、言葉にできる範囲でしか答えられません。安い方がいい、量が多い方がいい。どちらも嘘ではありません。でも、本当にお金を払っている理由はそこじゃないんです。
本音は本人も自覚していません。口から出るのは後付けの理由ばかりです。だから聞いた通りに作ると、大抵外れます。
じゃあ何を見るのか。言葉そのものじゃなくて、その人の行動と状況です。いつ、どんな場面で、何に困って、何と比べて、決め手は何だったのか。本音はこういうところに出てきます。

自分が現場でやるのはN1分析です。顧客インサイトを掴むために、実際に買った1人まで絞り込みます。その人がどんな生活をしていて、何がきっかけで買ったのかを一個ずつ追っていきます。大勢の平均をとった浅い回答より、1人を深く掘った方が決め手が見えてきます。
そして自分の経験だと、1人を深く掘って拾った決め手は、同じ事情を抱えた人にもだいたいそのまま刺さります。
機能だけで戦うと苦しくなる(宅食の例)
宅食(冷凍の宅配弁当)を売るとします。商品ページに「レンジで5分、シェフ監修の絶品ハンバーグ」と書いたとします。味も価格も悪くないのに、価格と手軽さの勝負に巻き込まれます。
なぜかというと、「おいしくて手軽な食事」という土俵には、強い相手が大勢いるからです。コンビニに行けば数百円で温かい弁当が買えます。Uber Eatsなら30分でできたてが届きます。スーパーの惣菜もある。「レンジで5分の絶品ハンバーグ」は、その全部と並べて比べられます。
機能の良し悪しで挑むと、資本力のある競合や手軽な代わりの手段に押し負けます。味を上げても価格を下げても、相手も同じ手を打ってくるからです。機能を足す勝負になれば、一番体力のある会社が最後に残ります。後発の中小ECがわざわざ選ぶ場所じゃありません。

だからこそ、比べられる軸を機能からずらします。同じ商品でも、何を売っていると決めるかで、戦う相手そのものが変わるからです。
買っているのは「ちゃんとした生活をしている安心」
宅食を買う人の本音を、N1で掘ってみます。仕事で帰りが遅くて、料理する気力が残っていない。気づけばコンビニ弁当ばかりで、体に悪そうだと薄々分かっている。ちゃんとした食事を作れない自分に、どこか後ろめたさがある。
この人が本当にお金を出しているのは、「自分はちゃんとした生活をしている」という安心です。栄養バランスの取れた食事を罪悪感なく食べられて、その気持ちのほうにお金を払っているんです。
顧客が買っているのはハンバーグではなく、「ちゃんとした生活をしている安心」です。
ここまで分かると、伝え方が一気に変わります。例えば監修者です。おいしさを売るつもりなら有名店のシェフを連れてきたくなります。でも、この人が欲しいのは安心です。だからこの人に限れば、監修はシェフより管理栄養士の方が効きます。
「プロが味を保証した」より「栄養の専門家が献立を組んでいる」の方が、あの後ろめたさを軽くしてくれるからです。誰に監修してもらうかも、結局その人の本音から逆算して決めるわけです。

モノではなく、片づけたい用事(ジョブ)を売る
顧客が払っているのは、片づけたい用事(ジョブ)への対価です。ジョブ理論で言うジョブですね。商品はその用事を済ませる道具で、たまたま選ばれているだけです。宅食ならジョブは「ちゃんとした生活をしている安心」で、ハンバーグはそれを果たすための手段です。売っているのはジョブだと腹を決めると、打ち手が一本に揃います。
ジョブが1つに決まれば、訴求の言葉も、監修者も、価格の打ち出し方も、全部そこに合わせるだけです。コピーは「忙しくても、ちゃんとしたものを食べている」。監修は管理栄養士に頼む。価格は1食当たりの単価ではなく「週5日の安心」で出す。バラバラだった要素が、1つの本音に向かって揃っていきます。
逆にやりがちなのが、ジョブを決めないまま機能を盛ることです。味、量、品数、低糖質と全部に手を出すと、ページは情報で埋まります。それなのに、誰のどんな困りごとに効くのかがぼやけます。あれこれ機能を増やすより、ジョブを1つに絞った方がよっぽど刺さります。商品の組み立て方は売れるEC商品は「逆算」で決まるで詳しく書いています。
顧客は必ず何かと比べて選ぶ(POP/POD/POFで位置を決める)
ジョブが見えたら、次は競合との位置取りです。顧客は商品を単独では選ばず、必ず何かと比べます。宅食を買う人なら、他社の宅食、コンビニ、自炊を頭の中で並べている。その比較の中で、自分の商品をどこに置くかを決めていきます。
ここで自分が使うのがPOP/POD/POFの3つです。競合をシーン・イシュー・ソリューションの層で読む詳しい話は競合を3つの層で読むにまとめています。POP(同質化点)は、候補に入るための最低条件です。宅食なら「冷凍で届く」「レンジで温められる」あたりで、これが欠けるとそもそも土俵に上がれません。
POD(差別化点)は、自社を選ぶ理由です。これがあるからここにする、という決め手の1点ですね。POF(競合の弱点)は、競合を避ける理由です。「あっちはここが面倒」をつぶしにいきます。

ここで全部を強くしようとすると、大抵失敗します。最低条件を満たしたうえで、買う理由を1つ、競合を避ける理由を1つ、はっきり立てる。欲張るとコストが膨らむ割に、どれも中途半端になります。最後は「誰向けか分からない商品」のできあがりです。
捨てるから選ばれる(バルミューダと後発トースター)
捨てて伸ばす考え方を、トースターで一つ仮に組み立ててみます。バルミューダのトースターは、スチームで焼く高級トースターとして定着しました。標準機でも実売2万円台、上位機はもっと高い。後発が正面から挑むなら、もっとおいしく焼ける加熱方式を作ろうとするでしょう。でもそれは資本と技術の殴り合いになるので、中小にはどう考えても重すぎます。
そこで発想を変えます。差別化の柱だったスチーム(POD)を、思い切って捨てる。そのうえで高級トースターの引っかかり(POF)を洗い出します。一つは高い価格、もう一つは、おいしく焼くモードでは毎回少量の水を入れる手間です。この2つが、買う前にみんなが引っかかるところです。
もし後発で挑むなら、そこを解消する手があります。スチームを捨てて水入れの手間もなくし、それでいて普通においしく焼けるトースターを、仮に15,000円で出す。

これで「ジェネリック・ハイエンド」、高級品の要点だけ残した後発品という位置が取れます。高級トースターの世界観は欲しいけれど、3万円も水入れの手間もいらない。そういう人が、これを選ぶ理由ができます。全部で上回ろうとするんじゃなくて、何を捨てるかで買う理由が決まったわけです。
勝敗の大半はポジショニングで決まります。何を捨てるかで、買う理由が立つわけです。
正直、作れる機能をあえて外す判断が一番難しいです。せっかく作れるものを削るのはもったいない。その気持ちはよく分かります。でも、ジョブに関係ない機能は、粗利を削るうえに運用まで重くするだけなんです。どのジョブを片づけるかを決めて、要らない機能を削る。市場の伸びから逆算して商品を決める発想と、根っこは同じです。
最後に
自分が現場で関わってきた限り、商品が刺さらない原因の多くは機能不足ではありません。片づけたい用事のズレです。本当に片づけたい用事を取り違えているか、決め切れていないか。だいたいこのどちらかに行き着きます。
やってほしいのは、難しいことではありません。一番最近の注文を1件だけ選んで、その人がどんな状況で、何と比べて、何を決め手に買ったのかを書き出してみる。たった1人を深く掘るだけで、アンケートでは絶対出てこなかった本音が見えてきます。
そこからジョブを1つに決めて、要らない機能を1つ捨てる。それだけで、見出しも監修者も価格の打ち出し方も変えられます。広告でこのジョブをどう映像にするかは効く広告クリエイティブとKPIの逆算で、商品・チャネル・販促をまとめてどう動かすかはEC・D2Cの売上を伸ばす全体像で続けます。