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MVVの作り方。EC/D2Cの判断軸を立てる
MVVと聞くと、額に入れて壁に貼る立派な言葉、という印象を持つ方が多いと思います。自分はそうは考えていません。EC/D2Cの現場でMVVが効くのは、毎日の細かい判断がブレないようにする軸になるからです。この記事では、その軸を未来予測から逆算で立てる手順を、できるだけ現場の言葉でお伝えします。
なぜEC/D2CでMVVが要るのか
商品を一つ出すだけでも、決めることは山ほどあります。どんな成分にするか、誰に向けるか、いくらにするか、LPの一行目に何を書くか。一つひとつは小さな判断ですが、これが毎日積み重なります。
このとき、判断の基準が人によって違ったり、その日の気分で変わったりすると、商品とコピーとターゲットがじわじわズレていきます。半年後に振り返ると、何を売っている会社なのか自分たちでも説明できなくなっている。これは珍しいことではありません。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は、その判断のときに立ち返る場所です。理念を掲げて満足するためのものではなく、「今この決め方で合っているか」を毎回照らし合わせるための軸として持ちます。軸があれば、迷ったときに戻れます。なければ毎回ゼロから議論することになって、結局は声の大きい人の意見で決まります。

3つの言葉の役割を、自分はこう分けて考えています。
ビジョンは、その事業で実現したい未来の社会像です。自分たちの事業があることで、世の中に定着する「新しい当たり前」と言い換えてもいいです。ミッションは、そのビジョンを現実にするために、事業を通じて社会へ還元する役割です。具体的にどう動くか、という話になります。バリューは、ミッションをやり遂げるうえで何より重んじる価値観です。外から借りてくるのではなく、自分たちが既に持っている強みや資質から立てます。
作る順序は逆算で決める
ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。MVVは並びの順番で作りません。むしろ逆から作ります。
つまり、ビジョン → ミッション → バリューの順で考えて、最後に「バリューを信念に貫き、ミッションを積み重ねて、ビジョンという未来を創る」という形にまとめます。表に出すときの並びと、作るときの考える順番は別物だと思ってください。

未来予測からビジョンを描く
最初にやるのは、きれいな理想を語ることではありません。逆です。「自分たちが何もしなければ、この世界はどんな望ましくない未来になるか」をあえて残酷に想像します。
たとえば睡眠系のサプリを扱っているなら、こう考えます。情報だけが増えて、何を信じればいいか分からなくなった人たちが、結局よく分からないまま高いものを買い続けて、眠れないまま朝を迎える毎日が当たり前になっていく。そんな未来です。
その最悪を、まず言葉にします。そのうえで、その最悪を避けた先に何があってほしいかを描く。これがビジョンになります。残酷な未来から入ると、理想がふわっとした美辞麗句になりません。避けたい現実がはっきりしているぶん、目指す未来も具体的になります。
きれいな理想から入ると言葉が浮きます。避けたい未来から入ると、目指す先が地に足のついたものになります。
障害を特定してミッションを決める
理想の未来が描けたら、次は「なぜ今それが実現していないのか」を考えます。理想を阻んでいるボトルネックは何か。何が解ければ理想にたどり着けるのか。
さきほどの睡眠の例なら、ボトルネックは「自分の眠れない理由が分からないまま、当てずっぽうで買っている」ことかもしれません。だとしたら、解くべき課題は情報の整理と、選び方を分かりやすくすることです。
その課題を打破するために、自分たちが事業を通じて起こす具体的な動き。これがミッションです。ビジョンが「どんな未来か」なら、ミッションは「そのために自分たちが何をやるか」です。
バリューは自社の内側から立てる
最後がバリューです。ミッションをやり切るために、絶対に外せない規範は何か。
ここで大事なのは、流行りの言葉や他社の立派なバリューを借りてこないことです。バリューは自分たちの内側にある強みや資質からしか出てきません。もともと品質に異常なこだわりがある会社なら、その執着がバリューになります。お客さんとの距離の近さが強みなら、それを規範に書きます。
借り物のバリューは、いざ判断に迷ったときに役に立ちません。自分たちが本当に大事にしているものでないと、苦しいときに守れないからです。誰に絞るかをさらに深く詰める話はターゲティングの記事に、顧客の不便をどう掘るかは顧客インサイトの記事に分けて書いています。
4C×5Pで事業のコンセプトへ落とす
MVVが決まっても、それだけでは商品になりません。ミッションを実際の事業の中身、つまり「何を提供価値とするか」まで降ろす必要があります。自分はこの作業を4Cと5Pの2段階でやっています。

まず4Cで、事業の魂にあたるコンセプト(提供価値)を絞り込みます。
Consumerは、顧客が抱えている不便や痛みです。何に困っているのか。Companyは、自社だけが出せるベネフィットです。よそにはできない、自分たちならではの価値。Competitorは、競合に対してお客さんが言葉にしていない不満です。今ある選択肢の、どこに物足りなさを感じているか。
この3つが交わるところに、Concept(提供価値)が立ちます。顧客が困っていて、自社だから出せて、競合がまだ満たせていない。その重なりがコンセプトの芯になります。競合をどう読むかの細かい話は競合を3つの層で読む記事に分けたので、ここでは深入りしません。
コンセプトが決まったら、5Pでそれを届ける具体に降ろします。
Prime Prospectは最重要ターゲット、誰に絞るか。Point of Parityは最低限揃える機能、これは守りです。Point of Differenceは独自の相違点、ここが攻めになります。Promotion Strategyはどう知ってもらうか。PR Taglineは、それを一言で表すキャッチです。
4Cで芯を作り、5Pで届け方を決める。この2段階を通すと、MVVが宙に浮いた言葉のままで終わらず、商品の中身とお客さんへの届け方まで、一本の線で決まります。タグラインの磨き方はコピーライティングの記事でくわしく扱っています。
バリュープロポジションが選ばれる理由になる
4Cで芯を絞るとき、もう少し言葉にしておきたいのがバリュープロポジションです。
これは、3つの円が重なる場所だと考えると分かりやすいです。「顧客が切実に求める価値」と「自社だけが出せる価値」が重なったところ。そこから「競合が既に出している価値」を引いた残りが、自分たちの独自の領域になります。

顧客が求めていても、競合もすでに出しているなら、そこで選ばれる理由にはなりません。自社だけが出せても、顧客が求めていないなら、ただの自己満足です。切実に求められていて、自社だから出せて、まだ誰も満たしていない。その引き算の残りだけが、選ばれる理由になります。
そしてこの領域は、いったん固めると参入障壁にもなります。競合が同じことをやろうとしても、自社の内側の強みから立てた価値は簡単に真似できないからです。お堀のようなものだと思ってください。
MVVが決まると下流が揃う
MVVと提供価値が固まると、その下にある判断がぜんぶ同じ向きに揃い始めます。ここがいちばん効いてくるところです。
戦略として数字に落とすとき、何をKGI・KPIに置くかが迷わなくなります。どこに資源を配るかも、ビジョンとミッションに照らせば決められます。このあたりの数字への落とし方はEC戦略の記事に分けました。
ターゲティングも、Prime Prospectが芯から決まっているので、誰に向けて何を言うかがブレません。競合に対する立ち位置も、バリュープロポジションで引き算した独自領域がそのまま立ち位置になります。コピーも、PR Taglineがコンセプトから出てきているので、思いつきのキャッチにならずに済みます。
軸が一本通っていれば、数字もターゲットも競合の立ち位置もコピーも、同じ向きに自然と揃っていきます。
逆に言うと、下流の施策がいつもバラバラに見える事業は、たいてい上流のMVVが曖昧なままになっています。施策を個別に直しても、軸がなければまたズレます。直すべきは枝ではなく根のほうです。
最後に
正直に言うと、MVVを作る作業はすぐにお金になりません。商品を一つ出すほうがよっぽど早く動いた気になります。だから後回しにされがちですし、自分も昔はそう思っていました。
ただ、判断の回数が増えれば増えるほど、軸のあるなしの差は効いてきます。最初に半日かけて未来予測から逆算しておくと、その後の何百回という小さな判断が速くなって、ズレなくなります。
次の一歩としては、まず「自分たちが何もしなければ、この市場はどんな残念な未来になるか」を一行書いてみてください。そこから逆算が始まります。EC/D2C全体の中でMVVがどこに位置するかはECマーケティングの全体像にまとめてあるので、合わせて読んでもらえると地図がつかめると思います。