EC
D2Cのユニットエコノミクス。CPAとLTVと物流の壁
売上は前年を超えた。広告も回っている。なのに月末に口座を確認するとお金が残っていない。自社EC・D2Cでこういう相談を、自分はずいぶん受けてきました。
正直、利益が出ないのは担当者の努力不足ではありません。単価とCPAと物流。この3つが商品を出す前から噛み合っていないだけです。電卓を叩く順番から確認していきます。
D2Cは「お金をかけて新規を取る」が前提の売り方
自社EC・D2Cは、もともと新規獲得にお金がかかる売り方です。Amazonや楽天のように既に人が集まる場所に商品を置くわけではない。広告で自分の場所まで人を連れてくるぶん、CPA(顧客獲得単価)は高く出ます。
これを「いつか下がる」と楽観すると、最初から崩れます。高いCPAはD2Cだと最初から織り込んでおく数字だと思ってください。
CPAが高い前提なら、回収する側の数字も高くないと釣り合いません。客単価が高くて、何度も買ってもらえる。この2つが揃って初めて獲得コストを取り返せます。
安い商品を1回だけ売る形だと、広告費を払うたびに赤字が積み上がります。クリエイティブを磨いてもLPを直しても黒字に届きません。単価との組み合わせが合っていないからです。
利益が出ないのは努力不足ではありません。手を動かす前に、いくらで売っていくらで取るかの組み合わせを疑ってください。
この単価の決め方は、商品を企画段階でどう組み立てるかと同じ話です。市場の変数から逆算して商品を決める考え方は売れるEC商品は「逆算」で決まるでまとめています。
ユニットエコノミクスはLTV÷CPAが3以上か
ユニットエコノミクス(1人の顧客当たりの採算)を判断する基準を、自分はシンプルにしています。LTV÷CPAが3以上かどうか。これだけです。1人を取るのにかけたお金に対して、その1人から生涯で得られる粗利が3倍あるか。ここを最低ラインに置いています。ここで言うLTVは売上ではなく、原価・送料・決済手数料を引いた後の累計粗利です。売上で3倍取れても原価率が高ければ赤字なので、必ず粗利で割ってください。
CPAが5,000円なら、その顧客から最低でも15,000円の粗利がほしい。LTVがCPAの2倍程度にしかならない単価とリピートだと、広告運用をどれだけ細かく回しても黒字化は遠いままです。
だからこそ、商品を決める前に数字を出す。いくらで売って、何回買ってもらって、獲得にいくらまでかけられるか。商品名やパッケージより先に、この割り算を済ませてください。

3を下回ると分かった時点で、やることは2つに絞れます。単価を上げるか、リピートを増やすか。中身を変えずに広告だけで何とかしようとするのが、一番効きません。
低単価をD2Cで売る危うさ。1,000円サプリの27%が消える
低単価の単品をD2Cで売ると、物流と処理のコストに利益を食われます。1袋1,000円のサプリを1個ずつ売ると、送料・決済手数料・受注処理でざっくり270円ほど。大半は送料です。売上の3割近くが、売れた瞬間に消えます。残った売上から原価と広告費を引いたら、もう何も残りません。
ところが3袋3,000円のまとめ売りにすると、話が変わります。270円はほぼ変わらないのに、3,000円に対する割合は9%まで下がる。送料や決済処理は「注文1回」にかかるコストです。だから1回の注文に多く積むほど、1袋当たりの負担が軽くなります。

低単価の単品はD2Cだとかなり厳しいです。出すなら単価を上げるか、最初からまとめ買いを前提に組みます。1個売りの定価のまま「送料無料キャンペーン」で押し切ると、その送料は全部こちらの粗利から引かれます。数字を出してから商品を決める、というのはこういう意味です。
厚さ3cmの壁。自社ECの物流コストが原価と利益を動かす
物流費もCPAと並んで、利益を大きく削ります。配送料には料金区分の段差があって、一番分かりやすいのが厚さ3cm。ポスト投函で届く薄型便と宅配便の、おおよその境目です。ここを1mmでも超えると配送区分が変わって、1注文当たりの送料が跳ね上がります。
これは商品の形を決める段階で利益に効いてきます。サプリの袋を分厚くするか薄く広げるか。化粧品のボトルを何mlにするか。見た目の話のようでいて、1注文当たりの利益を直に動かす数字です。
3cmを意識せずにパッケージを決めると、売れば売るほど送料で利益が薄くなる商品が出来上がります。

形を決める段階で、配送コストまで一緒に逆算しておきます。商品企画で何度も出てくる「自社の強みから考える」、それにモールごとの手数料と送料から形と価格を逆算するという話と、根っこは同じです。商品の厚みやサイズは、使い勝手と同じくらい粗利を左右します。
定期(サブスク)を前提に単価とリピートを組む
高単価とまとめ買いに加えて、もう1つ押さえておきたい数字があります。定期(サブスク)です。単発で終わると、高いCPAを1回の粗利で取り返さないといけない。これがかなり苦しいです。だから継続して買ってもらいながら、何回かに分けてLTVを積みます。
ここでもやることは割り算です。初回のCPAを、定期が平均何回続くかで割る。CPA9,000円で定期が平均3回続くなら、1回当たり3,000円のコストを乗せている計算になります。
だから「何回続けば黒字に乗るか」を、商品を出す前に出しておく。3回で黒字、5回で十分な利益、という線が見えていれば、何回目の解約を止めにいくかもはっきりします。ここでは「何回で黒字に乗るか」の電卓まで。継続回数を実際に伸ばす打ち手はリピートとLTVの伸ばし方にまとめています。

2回目の購入率が低い商品は、定期にしても続きません。いくら新規を取っても広告費を回収できません。一度使って「もういいかな」と思われたら、それは広告ではなく商品そのものの問題です。
新規を増やす前に、2回目を買ってもらえる商品かどうかを先に確かめてください。広告のKPIを単価とCVRから逆算する手順は効く広告クリエイティブとKPIの逆算に書いています。
売れた後に潰れない。在庫滞留と業務過多を先に想像する
D2Cを潰すのは赤字だけではありません。多いのは在庫滞留と業務過多です。帳簿上は黒字でも、在庫にお金が固まってキャッシュが回らず倒れる。LTV÷CPAが3を超えていても、その粗利を取り返すのに何ヶ月かかるか(回収期間)を見ておかないと、黒字計算のまま現金が先に尽きます。あるいは注文は増えたのに現場の手が追いつかず、人と現場が先に壊れます。この2つは「売れているのに苦しい」という形で出てきます。
在庫は、SKU(商品の種類)を増やすほど読めなくなります。3色×5サイズで15SKUを抱えると、どのSKUが何個売れるかの予測がほぼ当たらない。欠品と過剰在庫が同時に起きます。
だから絞ります。1SKUに寄せれば需要を読みやすく、必要な在庫も資金繰りも計算できます。ターゲットを絞ったブランドが品番を増やさずに伸びていくのは、ここで在庫を読み違えないからです。
業務過多の方は、作業時間も粗利を削るコストとして数えないと見落とします。梱包が1個10秒でも、1万個出れば約27時間。誰かがその時間を負担しているわけです。
割れない容器を選ぶ、緩衝材なしで送れる箱にする、ボトルに大きく印字して説明書を省く。こうした売れた後の手間を先に減らしておけば、注文が伸びても現場が壊れません。

売れた後に出ていくお金と時間を、出す前に想像しておく。自分はここがD2Cで生き残れるかどうかの分かれ目だと見ています。
最後に
単価、物流、定期、SKU。どれも先に数字を出しておけば防げる、地味な話ばかりです。チャネルと単価をどう組み合わせるかの全体像はEC・D2Cの売上を伸ばす全体像にまとめているので、併せて読んでもらえればと思います。
派手な施策に手をつける前に、今日、いま売っている主力商品でLTV÷CPAを一度だけ出してみてください。それで後の苦しさがだいぶ変わります。