EC
リピートとLTVで利益は決まる。売った後の回収を整える
ECで利益が残るかどうかは、新規をどれだけ取れたかでは決まりません。買ってくれた人ともう一度付き合えるかで決まります。
自分は月間営業赤字1億円だったEC会社を、2年で月次黒字に乗せました。効いたのは派手な新規施策ではなく、売った後の回収を地味に立て直したことでした。今回はF2の壁・引き上げ・定期化・RFMといった、リピートとLTVを立て直す打ち手を、自分が現場で追ってきた数字を交えて書きます。
新規だけ追っても利益は出ない
新規のCPA(顧客1人を獲得するコスト)は、年々上がっています。Meta広告もGoogle広告も入札の競争が激しい。5年前なら2,000円で取れていた顧客が、今は4,000円かかります。このくらいの値上がりは、自分のまわりでも珍しくありません。
例えば1袋3,000円のサプリ。原価と送料と決済手数料を引けば、初回の粗利はほとんど残りません。そこに広告費4,000円を乗せれば、初回は赤字です。
だから初回の赤字を取り戻すのは、2回目以降のリピートです。初回は赤字を覚悟で顧客を取って、2回目・3回目の粗利で広告費を取り戻します。
これを分かっていないままCPAだけ追うと、売上は伸びているのにお金が残りません。資金が詰まってからだと、もう打てる手がほとんど残っていません。

LTV ÷ CPA を3以上にする
回収できているかを測る数字が、LTV ÷ CPA です。LTV(顧客生涯価値)を CPA(獲得単価)で割ります。3以上あれば健全だと自分は見ています。これを一つの目安にしています。
ここで一つ気をつけたいのが、LTVは売上ではなく粗利で見ることです。原価や送料を引いた後の累計粗利でないと、回収の判断には使えません。売上が3万円でも粗利率が3割なら、回収に回せるのは9,000円です。CPAと割るのは、必ずこの粗利の方です。
CPA4,000円で取った顧客から、生涯で累計12,000円の粗利が残るなら、比率は3。ここを下回ると、取れば取るほど自分の首が絞まります。
LTVは「客単価 × 購入頻度 × 継続期間 × 粗利率」で見ます。1袋を1カ月で使い切る3,000円のサプリを、月1回ペースで1年続けてくれれば売上は 3,000 × 12 = 36,000円。粗利率が3割なら、残る粗利は約10,800円。CPA4,000円に対して比率は2.7です。逆に1回で終われば、残る粗利は約900円。比率は0.2。完全な赤字です。
新規のCPAは自社だけでは動かしにくい。けれどLTVは、買った後の打ち手で伸ばせます。
EC担当者の多くはCPAを下げることに必死になります。でもCPAは広告市場の相場に引っ張られるので、自社の努力には限界があります。一方でLTVは、リピート施策次第で2倍、3倍まで伸びます。ここに力を割いた方が、利益への効き目はずっと大きいです。
広告側の数字をどう読むかは広告とKPIで、自社EC全体の収益のつかみ方はD2Cの収益で詳しく書いています。
一番高い崖は「F2の壁」
リピートで一番多く顧客が脱落するのは、初回購入から2回目購入への転換です。自分はこれを「F2の壁」と呼んでいます。Frequency(購入回数)が1回から2回に増える、ここが最大の崖です。
コホートで追うとよく分かります。2回目を買ってくれた顧客は、3回目・4回目も続ける確率が明らかに上がります。裏を返せば、初回で終わる人が一番多いということです。だから自分は、まずF2の壁を越えてもらうところから手を打ちます。
勝負がつくのは初回購入の直後です。商品が届いたその瞬間に、2回目を買う理由を渡せているかどうか。ここで決まります。同梱物、購入後のフォローメール、LINE公式アカウントでの声かけ。このタイミングを逃すと、顧客は次に買おうと考える前にブランドのことを忘れます。
届いて、使って、満足が冷めないうちに、次回クーポンや飲み切り時期の案内を出します。F2はそこで決まります。

引き上げと定期購入で、回収を安定させる
F2を越えたら、次は単品購入から複数購入・定期購入へ移ってもらいます。これを引き上げと呼びます。引き上げが効くのは、継続率が上がるからだけではありません。1回当たりの送料・決済・出荷の費率が、ぐっと下がるからです。
数字で見ると分かりやすいです。1袋1,000円のサプリを1個だけ売ると、送料・決済手数料・出荷処理でだいたい270円消えます。売上に対して27%で、かなり重い負担です。
同じ顧客に3袋3,000円でまとめ買いしてもらうと、送料も出荷も1回分で済みます。1回分の送料・出荷費は、売上3,000円に対して約3%まで下がります。決済手数料だけは金額に比例するので、率は変わりません。合計すると、27%だった負担が12%前後まで落ちます(数字は概算です)。同じ商品を売っているのに、手元の残り方がまるで違ってきます。
定期購入にすれば、回収はもっと安定します。毎月決まったタイミングで届くので、顧客は買い忘れません。こちらも出荷数を読みやすくなります。単品をバラバラに買われるより、3袋まとめや定期に移してもらった方が、利益率も回収の読みやすさも上がります。
同じ顧客でも、1袋ずつ買われるか、3袋・定期で買われるかで、手元に残る利益は大きく変わります。
CRMの打ち手は、買ってくれた人ともう一度付き合うこと
CRM(顧客関係管理)というと難しく聞こえますが、やることはシンプルです。買ってくれた人に、次も買う理由を用意する。やることはそれだけです。新しいチャネルを増やして新規を取りに行くより、ずっと安く済みます。自分が現場で最初に手をつけるのも、だいたいこのあたりです。
同梱物
商品に同封する紙やカードです。2回目で使えるクーポン、商品の使い方ガイド、なぜこの商品を作ったのかという話。届いた箱を開けた瞬間は、顧客が一番ブランドに向き合っている時間です。だからここにお金をかける意味があります。デジタル施策と違って、かなり高い確率で目に入ります。
ステップメールとLINE公式
購入から3日後、7日後、14日後と、決めておいた順番で自動配信するのがステップメールです。「使い始めてどうですか」「朝でも夜でも飲んで大丈夫ですよ」と声をかけます。そして飲み切りの時期に合わせて2回目を案内する。最近はメールよりLINE公式の方が開封率が高いので、LINEを中心に切り替える会社も増えています。
レビュー依頼と優良顧客への先行案内
使い終わったタイミングでレビューを依頼すると、満足している顧客の声が溜まります。それが新規顧客の背中を押す材料になります。レビューの効き方は、Amazonや楽天で特に大きいです。
それと、たくさん買ってくれている優良顧客には、新商品やセールを一般公開前に案内する。自分だけ先に知れたという感覚が、続ける動機をつくります。

RFM分析で顧客を分けて、打ち手を変える
ここまでの打ち手を、全員に同じ内容で送ると反応が落ちます。顧客ごとに買う温度が違うからです。最終購入から1週間の人と、半年買っていない人に、同じメールを送って、同じように響くわけがありません。
そこで使うのが RFM です。Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)。この3つで顧客を分けます。直近で買っていて、回数も金額も高い人は優良顧客。最後の購入から間が空いて頻度が落ちている人は、離れかけている顧客です。
優良顧客には先行案内や限定オファーで関係を深めます。離れかけの顧客には「お久しぶりです」と復帰を促すクーポンを送ります。顧客の状態ごとにオファーを変えるだけで、同じ配信数でも反応率が変わってきます。
顧客が何を求めているかの見極めについては顧客インサイトの記事も併せて読んでみてください。
定期購入の解約・離反は、起きる前に理由をつぶす
定期購入を増やせば、必ず解約が出ます。出てから慌てるより、よくある解約理由を先に潰しておきます。自分の経験だと、理由は大体3つに集まります。「飲み切れずに余る」「効果の実感が遅い」「価格が負担」。
余るなら、毎月でなく残量に合わせて配送間隔を選べるようにする。実感が遅いという人には、ステップメールで「何週間くらいで変化を感じる人が多いです」と先に伝えておきます。そうすると、顧客も待てるようになります。価格の負担は、続けるほど安くなる仕組みでやわらげます。
それと、考えどころなのが回数縛りとの付き合い方です。回数縛りは初回赤字を回収する仕組みとして機能する一方、縛りが切れる回で解約が集中します。「最低3回は買ってください」と決めたなら、その3回目までに「続けたい理由」を渡しきれているかをセットで考える。縛りに頼るほど、満足してもらう工夫の方が手薄になりがちです。
縛るかわりに、続けたくなる理由を用意します。使い切れる周期に変えられて、困ったら相談できる窓口があって、休止も再開も簡単だと分かる。そうすると、解約せずに休止で残ってくれる人が増えます。

最後に
ある案件では、すでにある程度の既存顧客リストがあったのが前提ですが、新規商材を広告費ほぼ0円、その案内だけで3カ月で5,000万円まで伸ばせたことがあります(商材や顧客基盤の条件が揃った一例です)。力を注いだのは新規獲得そのものより、買ってくれた後の回収でした。F2を越えてもらい、定期に移ってもらい、LTVを引き上げる。この3つを立て直したことが効きました。
新規を取るのは大事です。でも、獲得費を回収できなければ、いくら顧客を増やしても利益は残りません。F2の壁を越えてもらう。引き上げと定期化で1回当たりの送料・出荷費率を下げる。RFMで分けて打ち手を変える。どれも地味な話です。でも、ここを整えた会社ほど、広告費が上がっても崩れません。
EC全体の組み立て方はEC戦略の全体像で、商品づくりの考え方は10の逆算で書いています。新規獲得と同じ熱量で、売った後の回収にも手をかけてみてください。